創業「寺子屋」

開業を予定されている皆さまへ
開業の準備は順調に進んでいますか?
今はパソコンで調べれば、一流の専門家の人たちから、たくさんの情報が得られます。
公庫のHPでも、様々な情報が提供されていますし、「ビジネスサポートプラザ」では、
専門の担当者が個別の相談に乗ってくれます(予約制)。
 ただ、現役時代、審査や融資相談をやっていた時に、「これらの情報をうまく生かし切れていない開業予定の方が沢山いらっしゃるな」と感じていました。
『情報としてはわかるんだけど、じゃあ私はどうしたらいいの?』
そんな悩みを抱える方をサポートできればと思い、このページを開設しました。
頑張っている開業予定の方の疑問が、少しでも解消されれば幸いです。
「計画はネガティブに、行動はアクティブに」  サポーター富太郎

第11回 『これから創業される方へ』
 公庫の『創業の手引き』に沿って、説明をさせていただいてきました。

手引きの32ページを見ていただくと、「日本政策金融公庫を利用した創業者からの
メッセージ」 ~これから創業される方へ~ というコメント集が載っています。

 24項目ありますが、これらは実際に公庫を利用された創業者の方からのメッセージ
です。

 ただ公庫を利用して、コメントを寄せた方はもっとたくさんいらっしゃるはず
なので、その中から公庫が意図してピックアップした、「公庫はこう考える」との
アドバイス、とも言えるのではないでしょうか。

 みな重要なコメントだと思います。一つずつ、『創業寺子屋』の中で説明した
各項目の「どの場面」の事かと、当てはめて読んでみてください。

 そして、公庫(国民生活事業)の内部用語ですが、『与信可能性の追求』
という言葉があります。

 「お客様にご利用いただくために、最善を尽くそう。」という意味だと、私は
理解しておりました。公庫職員が可能性を追求できるよう、お客様の側でも、
最善のプレゼン準備をしていただきたいと思います。

 とはいうものの、借入は借入なので、ご利用いただいても返済が大変で、返って
お借主の生活(場合によっては人生)を脅かしてはいけません。

 昔、城南信用金庫の理事長さんが言った『貸すも親切、貸さぬも親切』という言葉は、40年公庫職員として現場で携わってみて、やはり「言い得て妙」です。

 従いまして、これから創業を目指す皆さんには、「準備をしっかりと行う。」。
「計画は、自分の言葉で説明できるように、何度も、何度も練り直し、ブラッシュ
アップを図る。」。「突然のリスクも考慮し、資金には余裕を持たせる。」。
 以上をぜひ実践していただきたいと思います。

 『創業「寺子屋」』は、ここで一旦終了させていただきます。

 今後もトピックスで、参考になりそうな情報を随時追記させていただく予定です。

 お疲れさまでした。
 あなたの創業と、その後の事業展開が上手くいくことをお祈りいたします。

                             富太郎でした。

第10回 「創業計画書のつくり方」⑧
 今回は、前回の続きで「10 売上予測」、「11 収支計画」
について説明します。    (「創業の手引き」は17ページからです。)

 前回は、創業計画書の『8 事業の見通し(月平均)』について、④利益、③経費 
②売上原価と、下から見ていきました。

 今回は、①売上高について説明します。

 17ページに『10 売上予測』という項目があります。
 これから事業を開始されるわけですから、誰も正確な数字を把握することはできま
せん。当然、審査担当者も同じで、前回も書きましたが「小規模企業の経営指標」を
参考に予測値を計算し、創業計画書の売上高と比較して、乖離が大きい場合には、
数値に修正を加えて融資の判断につなげていきます。

 また、経営指標は統計平均なので、都市部と地方の事業者が混在していたり、
前回の最後に「参考」として最新の数字と、前回調査の数字の比較を載せましたが、
サンプル数の少ない業種だと、数字が大きく変わる(暴れる)事もあり得ます。
 従って担当者は、何でもかんでも経営指標の数字をそのまま当てはめるのではなく
取引のある近隣の同業者の数値を、参考にしたりもしているようです。

 従って、担当者から「お店の広さは、何平米ですか?」とか「客単価はおいくら
ですか?」とか、「セット椅子は何台ですか?」とか、「従業員さんは何人ですか」
とか聞かれたら、『ああ、経営指標に当てはめて、予測売上高を出そうとしている
んだな。』と考えて、出来るだけ詳しく答えてあげてください。
 (報告書に書かなければいけないという側面もあるんですけどね。)

 以前、中小企業診断士の研修の『創業』に関する講義で、講師の先生が「公庫は
融資の判断に経営指標を使っているが、一企業ごとに状況は違うのだから、それは
おかしいのではないか。」との趣旨の発言をされていました。
 確かにお一人お一人全く同じということはあり得ないのですが、かと言って計画を
完璧に立証できるとも思えません。皆さんは経営指標の数字に縛られる必要はなく
「私にはこういう『強み』があるので、指標の数字を上回る結果が見込めます。」と
根拠を示してご説明いただければ、担当者は当然に耳を傾けるはずです。

 公庫が、この数字を利用することが有効と考えて活用しているのであれば、
皆さんがその数字を参考にして計画を作成することは、全くおかしなことではない
と、私は考えます。

 今一つぜひやっていただきたいのは、何かのアクシデント。例えば、近所に同業
ライバル店が出店したとか、目の前の道路の工事が始まって、人の流れが変わって
しまったとかで、万が一売上が下がったときのことをシュミレーションしてみる
事です。計画の100%以上の売上実績が上がるに越したことはありませんが、
コロナの例を挙げるまでもなく、何が起こるかわかりません。

 例えば、売上が90%になってしまったら、利益・収支はどうなるのか。80%なら
どうなのか。そして、その時に資金はいくら不足してしまうのか。あるいは、まだ、
余裕があるのか。そこまで考えて計画を立ててみるのが、上記あいさつ文に書いた
『計画はネガティブに』ということです。
 おそらく担当者は、頭の片隅で、そういう計算もしているはずです。


 以上で、「創業計画書」の作成に関する、私なりの考え方の説明を終わります。
次回は、最後のまとめとして、これから創業される方へのメッセージをお送りしたい
と思います。

                           富太郎でした。

 
第9回 「創業計画書のつくり方」⑦
   今回は、「10 売上予測」、「11 収支計画」、「12返済計画」
  について説明します。    (「創業の手引き」は17ページからです。)

 『創業計画書』の項目8「創業後の見通し(月平均)」を見ていただくと、
記入項目は、① 売上高、② 売上原価、③ 経費(内訳ⅰ人件費、ⅱ家賃、
ⅲ支払利息、ⅳその他)合計、④ 利益(①-②-③) となっています。

 手引きには「これから始める事業は、どれくらいの利益がでるか」という点が、
一番気にかかるところでしょう。
 とのコメントが書かれています。利益が出なければ商売は続けられないので、
ある意味当然ではありますが、計画を作るときに『利益』から逆算して「経費」、
「原価」、『売上』見込みを算出することによって、不自然な数字になっていないか
注意をする必要があります。

 ここで一つ、覚えていただきたい「経営分析の数式」があります。
『収支計画』を作るうえで、とても大切な考え方です。

  損益分岐点売上高
   損益分岐点売上高 = (経費*) ÷ ( 1 - 原価率 )

 「損益分岐点売上高」というのは、
 売上高と、総費用が等しくなり、利益・損失ともにゼロの地点での売上高のこと。
 すべての費用を回収するのに、必要な売上高をさします。

 10ページの記入例を見ていただくとわかるように、「借入金の返済元金」と、
「個人営業の『事業主分』の人件費」は、経費の中には算入しないので、上記式の
(経費*)の部分は、(経費+借入金返済元金+個人の生活費[住宅ローン等含む])と
なります。 (注:個人の生活費には、他にも税金や社会保険料等も考慮が必要。)
 なお、法人のケースでも、代表者個人の生活費が多く必要であれば、役員報酬を
増やさなければならない。つまり「経費」そのものが増えるので考え方は同じです。

 第6回で説明した「お借入れの状況」が、損益分岐点売上高に、ひいては、
『収支計画』に大きく影響し、『創業後の見通し』の妥当性にもかかわってきます。

 上記の内容を算式にしたものが、20ページの『返済計画』の下の「返済財源」と
「収支見込」です。(注:「減価償却費」は経費ではあるが、実際に現金は出て
行かないので、創業計画書の「創業後の見通し」の経費の欄には計上しない。
なお、この20ページは「開業後の損益計算書」の数字を基に、説明しています。)

 それでは、一項目ごとに、注意点を下から見ていきましょう。

 ④ 利益
  ・(最低限)返済元金と、個人企業の場合の生活費分は確保されているか?
   → 不足分が出るようであれば、確保できるまでのトータルの補填資金
    (余裕資金)の用意が必要になる。
   → 「創業資金」借入直後の、「追加の運転資金」の借入は、創業資金の
    借入よりも、ハードルが高いと考えていただいた方が無難。
     なぜならば、借入の増加は、返済負担を増やし、収支マイナスがさらに
    増えることになるから。当然「マイナスの解消見込み」や
    「次の資金補填方法(資金調達力)」を問われる。
   ⇒ 創業資金は「返済元金の開始を遅らせること(据置の設定)」も可能。
    但し、元金の減りが遅くなるので、次の追加運転資金の借入可能時期が、
    遅くなる可能性あり。

 ③ 経費
  ⅰ 人件費 (法人の場合の役員報酬も含みます。)
   ・従業員数等に見合った人件費は計上されているか?
    → 従業員数が、売上高の根拠に関係してくる(①売上高の項目で詳細)
    → "くれさんの店"の凄腕スタッフや、許認可業種で経営者が資格を
     持っていないようなケースの有資格従業員には、平均以上の人件費を
     計上しないと、事業が維持できない。
    → 家族やアルバイトでの代替検討も必要

  ⅱ 家賃
   ・「管理費」「共益費」等家賃のほかに毎月かかる費用も合算します。
    → "くれさんの店"のように家賃がかからない店と、第7回の三軒茶屋の
     参考物件②の家賃760千円の店では、損益分岐点売上高は、大きく
     変わります。物件選びは事業計画全体の重要なポイントです。

  ⅲ 支払利息
   ・金融機関分だけではなく、友人や身内からの借入でも利息を払うものは、
    計上が必要です。(「返済元金」についても、考え方は同じ。)
  
  ⅳ 経費
   ・FC本部へのフランチャイズ料が固定月額制の場合は「経費」に、
    売上に対する歩合制の場合は、「原価」に計上してください。
   ・カード払いの手数料の計上も、忘れずに。
   → 32ページの「創業者からのメッセージ(9)(11)」にもあるように、
    費用は多めに発生するとの意識が必要です。

 ② 原価
  ・『小企業の経営指標(公庫のHPで公開中#)』を参考にしてください。 
   # 国民生活事業書式⇒経営者の皆様向けの参考資料⇒ 1 小企業の経営指標
   → 公庫の担当者は、この数字を参考に審査を進めることをご認識ください。
   → 「現在の勤務先の原価率」を参考にする場合(経営指標より低いケース)、
    同じ条件で仕入れることが可能か確認が必要です。
   ⇒ 勤務先が大きな企業だと、規模のメリットで安く仕入れが可能かも
     しれません。仕入先の担当者との人間関係で「同じ条件で」可能なら、
     それは『強み』といえますので、審査担当者にアピールしましょう。

 今回は、ここまでにします。次回は① 売上高(予想)から、説明を続けます。

                         富太郎でした。
  補 足
 8月に公庫の経営指標の最新版(2年に1度、新しい統計に基づき改定される)が、
掲示されました。パン製造小売業で言うと、次の数字が大きく変わっていました。
               2017年調査 2019年調査
 ・従業者1人当たり売上高(千円)  13,922    8,664
 ・従業者1人当たり人件費(千円)   4,571     2,780

第8回 「創業計画書のつくり方」⑥
   今回は、「9 資金計画」の続き、(2)『調達の方法』を説明します。
   (「創業の手引き」は19ページです。)

  前回も途中まで説明しましたが、『必要な資金と調達の方法』の図です。
   表の左側が、『必要な資金』 = 何にいくら必要か? ・・・(1)
   表の右側が、『調達の方法』 = どのように用意するか? ・・・(2)    (1)の金額と、(2)の金額は一致させます。

 (2) 調達の方法  を順番に見ていきます。
  ① 自己資金
   読んで字のごとく、「事業に投入する、返済しなくてもよい」資金です。
   ・自分のお金でも、例えばお子さんの「学資資金」等、事業に投入できない
    お金は、はずして考えます。
   ・また、自分のお金といっても、「初めての〇〇」等、すぐに返さなければ
    ならない借りてきたお金も、含めるべきではありません。
    (支払利息の負担や、返済元金の負担は、開業後の採算や資金繰り悪化に
     直結します。)

   ★ 時々、何十万、何百万という金額のお金を、「手元に持っていました(タ
    ンス預金)」、あるいは「友人に貸していました」とポンと通帳に入れて
    くる方がいらっしゃいますが、『金銭感覚』の問題として、お手元のお金は
    今日、今すぐにでも通帳に入れてください。貸しているお金は、返して
    もらってください。そして蓄積過程がわかるよう、古い通帳や積立預金の
    通帳は、保管しておいてください。

     全体の資金計画にもよりますが、自己資金が少ないからというだけで、
    融資が断られるということは、まず、無いと思います。開業前の収入や
    ご家族構成による生活にかかる費用も影響してくるわけで、金額は多く
    はないが、コツコツと貯めてきたことがわかる資料が提示されれば、
    『開業への熱意』として評価されるはずです。

     もし、必要資金と返済負担との関係で、自己資金が足らないようならば、
    その分『必要な資金』を削る術を考えてください。前回ご説明したように、
    開業後、まず100%追加の資金は必要になります。
     
       自己資金をどれだけ準備できるか
    が、創業の成功確率を高める大きなポイントです。

  (手引き16ページの豆知識『自己資金の目安』も参考にしてください。)

  ② 親、兄弟、知人、友人等からの借入 (内訳・返済方法)
   〇 「援助」なのか、「借金」なのか明確にする必要があります。
    ・ 返さなければいけないお金であれば、(借用証書を用意しろとまでは
     言われないでしょうが)返済条件を明確にする必要があります。開業後の
     資金繰りに影響します。
    ・ 名前、住所、関係、何をしている人か、くらいは確認されると思って
     ください。もし、そのお金が調達できなければ、全体の資金計画に影響
     します。場合によっては「先に振り込んでもらってください」とお願い
     されるかもしれません。『プライバシイーにかかわる』ということで
     言えないということであれば、『余裕資金』として、この表には算入
     しない方が、無難でしょう。

  ③ 日本政策金融公庫 国民生活事業からの借入
   〇 公庫から借入する場合、設備資金、運転資金それぞれ『返済期間』の
    上限が決められており、『創業関係資金』は、通常の資金よりも長めに
    設定されています。
     月々の元金を少なくして、返済負担を軽くするために、制度いっぱいの
    返済期間を希望される方が多いですが、ひとつ注意していただきたいのは、
    設備には耐用年数があるということ。購入した機械や店の内装などが、
    返済期間だけ持つのかどうかということ。もし、返済中に買い替え等が
    必要になると、物はもうないのに、借金だけが残る状態になります。
     運転資金にしても、売上が計画を上回っても(増加運転資金)、下回っ
    ても資金は必要になるので、次の借入(申込)も頭の片隅に入れていただ
    いて、返済期間を検討していただきたいと思います。(もちろん、担当者
    と相談することは可能ですし、相談者から提案があるかもしれません。)

  ④ 他の金融機関等からの借入 (内訳・返済方法)
   〇 複数の金融機関が、一つの取引先に同じ使途で、同時に融資することを
    『協調融資』といいます。一行だけが融資を実行しても、目的が達成され
    ませんので、金融機関同士は、連絡を取り合い、進捗を合わせながら進める
    事が多いです。したがって、同時に申込んでいる金融機関の担当責任者に
    「見込、進捗等の話を聞かせてほしい。」とお願いする可能性が高いです。
    先方の金融機関にも、公庫への申込み状況等をよく説明しておきましょう。

 今回も、『真夜中のパン屋さん』”くれさんの店”の事例で考えてみましょう。

 恐らくですが、”くれさん”は、奥さんがかなりのところまで準備を進めていました
ので、サラリーマンとして蓄えもあり、退職金もあったでしょうから、無借金で
開業したと思われます。(ちょっと不謹慎になるかもしれませんが、万が一奥さんが
開業資金を金融機関から借り入れをしていたとしても、事故で亡くなったので、
保険で完済されているはずです。無理のない範囲で、保険は検討するべきです。)

 ただ、開業後にある事情から「資金調達」の必要が発生します。店の建物は、
亡くなった奥さん名義だったのですが、土地は親戚からの借地で、この親戚から
土地を買い取らないと商売が続けられない状況に追い込まれます。
(どう乗り切るか等、詳しくは読んでのお楽しみということで。)
 このように、いつ、何が起こるかわからないというリスク管理の意味も含めて、
資金には余裕を持たせることが重要です。


   今回のポイント
  ・ 自己資金をどれだけ準備できるかが、成功確率を高める

    次回は、『収支計画』について説明します。                            
                        富太郎でした。


第7回 「創業計画書のつくり方」⑤

  今回は、「9 資金計画」を説明します。 
  (「創業の手引き」は19ページです。)

  『必要な資金と調達の方法』とあります。

 表の左側が、『必要な資金』 = 何にいくら必要か? ・・・(1)

 表の右側が、『調達の方法』 = どのように用意するか? ・・・(2)

 (1)の金額と、(2)の金額は一致させます。

 (1) 必要な資金(「総投資額」を見える化します。)
   必要な資金は、①「設備資金」と、②「運転資金」とに分けて考えます。

 ① 「設備資金」 ~ ポイント:必要最低限に抑える。
  (店舗、工場、機械、備品、車両など→内装工事費、入居保証金なども。
   減価償却の対象となるもの、固定資産に計上されるものを記入する)
  ・考え方は、ⅰ 利益にどれだけ貢献しそうか
        ⅱ 「必要なモノか」「(あったらいいなの)欲しいモノか」
        ⅲ 「より安い代替品」や「中古品」ではだめか
  ・妥当性 ⅰ 家賃や内外装工事の単価は、周辺相場と比べて高くないか?
         (内装なのに、その単価だと新築できるのではないか?)
       ⅱ 事業(計画)規模と比べて、過大ではないか?
         (借入の返済負担と、予測収支がアンバランスではないか?)
      → どう考えても見積金額が大きすぎると思われる相談者が、時々
       いらっしゃいました。理由を聞くと「実は、公庫さんは申込金額を
       削るので、多めに申し込んだ方がいいと知人に言われたので。」との
       こと。私が働き始めるずっと前、50年くらい前には、公庫も資金が
       不足して満額融資が難しかった時代があったらしいとの話は、聞いた
       ことはありますが、今は必要な資金を理由もなく削ることはありませ
       ん。これだけ掛けたら、返済が厳しいだろうというケースでは、
       設備内容の見直し等により、減額の相談はあり得ますが。
        多すぎるから、減額(提案)する。減額されるから、多く申込む。
       卵と鶏状態ですが、「資金手当て」「収支計画」との『整合性』が
       重要でしょう。

 ② 「運転資金」 ~ ポイント:ゆとりを持たせる。
  (商品仕入れや、人件費・経費等の支払いのため手元に置いておく資金。
   固定資産に計上できない、店舗の礼金や仲介手数料も運転資金算入します。)
  ・考え方は、ⅰ 「資金ショートを防ぐ」ために必要な資金も考慮する。
         〇 軌道に乗るまでのまでに必要な赤字補填資金。借入金返済
          税金支払いなどに必要な資金(つなぎ資金)
           (公庫で発行している「新規開業白書」によると開業後、
            黒字になるまでに平均6か月以上かかっているそうです)
         〇 予測収支や取引条件から推測した支払いが先行する資金
           (売上、原価の変動や回収、支払いの条件によって必要と
            なる資金。 第5回で説明した「損益」と「キャッシュ
            フローの違い等から発生する。)
        ⅱ 自己資金等、返済負担の発生しない資金を確保して充当する
           ⇒ 表の右側『(資金)調達の方法』とも深く関連。

  今回も、『真夜中のパン屋さん』”くれさんの店”を事例にしてみましょう。

 ”くれさんの店”の最寄り駅は三軒茶屋で、駅から少し離れた住宅街にあります。
 物件は、亡くなった奥さん名義なので、家賃や保証金はかかりません。建物は、
 少し古いので改装費は、相場より多くかかるかもしれません。

  ちなみに、インターネットで三軒茶屋の貸店舗を検索したところ、パン屋の
 居抜き物件が2件ヒットしました。
  物件① 三軒茶屋駅徒歩4分 13.5坪(1F 10坪、B1 3.5坪)
      賃料 420千円(坪311千円)[成約済みのため保証金等不明]
      造作無償

  物件② 三軒茶屋駅徒歩3分 27坪(1F)、盛業中
      賃料 760千円(坪281千円)、保証金10か月、礼金1か月、
      仲介料1か月。 造作価格 相談

  参考物件(元飲食店) 三軒茶屋駅徒歩8分 11.44坪(1F)
      賃料 220千円(坪192千円)、保証金6か月、礼金2か月

  ★ 手引きの14ページに『出店場所の選定』という豆知識が載っています。
   出店場所は、売上を左右するだけでなく、家賃負担の多寡で採算を、かかる
   設備資金の金額、調達しなければならない資金をも大きく左右します。

   いまひとつ、「居抜き」をどう考えるかです。居抜きなので「設備資金」を
  押さえることが期待できますが、同業者が店を閉めたということは、何か事情が
  あるわけで、その理由を(極力)把握し、「自分ならその点を克服できるか」を
  十分に検討してみる必要があります。現地に何度も足を運んで、情報収集を納得
  がいくまで行うことをお勧めします。


  今回のポイント
   ・ 設備資金は必要最低限に、運転資金にはゆとりを持たせる
   ・ 出店場所の選定は、慎重に

 次回は今回の続き、『資金調達』から説明します。

                           富太郎でした。


第6回 「創業計画書のつくり方」④
  今回は、「5 従業員」「6 お借入れの状況」を説明します。
    (「創業の手引き」には、詳細の記載はありません。
     なお、31ページに『従業員の採用 』に関する説明があります。)

  まず、『従業員』に関する項目です。

 「役員数(法人のみ)」「従業員数(うち家族従業員数)(うちパート従業員数)」を
記入するようになっています。

 この人数等が何と関係するかというと、
 ① 『8 事業見通し』の売上高に整合性があるか、ということにつながります。
   → 公庫のホームページにある、「業種別経営指標」という資料に、
     『従業者1人当たり売上高』という指標があります。
     例えば、パン小売業(製造小売)だと、13,922千円 と出ています。
     これに、実際にフル稼働する人数相当数をかけたものが、年商の目安
     となり、計画の妥当性検討の材料になります。
     (因みに、以前参考資料としてお勧めした「Jnet21の業種別開業ガイド、
      ベーカリー」では3人で38,220千円、1人当たり12,740千円です。)
     
 ② 同様に『8 事業見通し』の「経費の中の人件費」の計算に関連します。
   → 上記と同様、「業種別経営指標」では、『従業者1人当たり人件費』
    4,571千円。Jnet21では、3人で13,300千円、1人当たり4,433千円です。

    なお、パート・アルバイト雇用予定で注意が必要なのは、都道府県ごとに
   「最低賃金」が決められていることです。東京都では1,013円です。計画を
   たてるときには、予定の単価で人を集められるかの検討も必要です。

    また、" くれさんの店 "のように、店の運営が従業員への依存が高いケース
   (許認可業種で、経営者が必要な資格を持っていないケースも)、人件費は
   多めに見積もる必要あります。

 ③ 家族がいれば、家族従業員になるのか否かもチェックポイントになります。
   → まずは、家族の理解と協力状況の確認。
     従業員になるということであれば、「人件費の節約」になりますし、
     外で働いて、資金面で側面からサポートするということであれば、
     それはそれで、資金収支の面でプラスになります。

 いずれにしても、「創業者を支える存在」がいれば、プラス要因です。


  続いて、『お借入れの状況』に関する項目です。

 まず申しあげたいのは「借入が多くて不利になりそうだから、一部隠しておく。」
というのは、止めたほうがよいでしょう。

 公庫で言えば、申込書の裏面を見てもらうとわかりますが、「個人信用情報機関」
の利用の同意が申込みにあたって必要となっています。つまり、記入しなくても
ほぼ借入の内容を担当者は把握できています。また、不動産をお持ちであれば、
登記事項を確認することで、担保の設定状況(例えば、住宅ローン)も、わかります。

 つまり、どのくらいの借入れがあるかを確認するのはもちろんのこと、何に
使ったかで、創業の準備状況や熱意。返済額で、創業後の資金収支見込計画の
妥当性の検証材料にもなっていくわけです。

 もちろん、お借入れをきちっと返済していることも重要なポイントとなります。
金融機関に申込をされるかなり前。創業の準備を始められる時から、自己資金の準備とともに、お借入れ関係にも注意を払いましょう。今日からでも、遅くありません。


  今回のポイント 
   「業種別経営指標」等、客観的な資料でご自身の計画書を検証してみる。
   「お金の準備」は、開業後の資金繰りまで視野に入れて、早めに始める。
    
  次回は、「7 必要な資金と調達方法」を説明します。

                            富太郎でした

第5回 「創業計画書のつくり方」③
 
 前回の続き、「3 取扱品・サービス」、「取引先・取引関係等」です。
 (「創業の手引き」は、12ページ『取扱商品やサービスを検討する際に、
 気を付けることはありますか ? 』からです。)

 「対象とする顧客や立地条件にマッチした商品・サービスになっているか」
よく考えてみましょう。   とありますが、具体的には ?
 
 (1) 誰に対して → メインのお客さま(お金を払ってくれる人)は誰 ?
  
 (2) 何を
  ① 商品は ?  → どのような商品、サービスを 提供する ?

  ② 提供する価値に → 優位性、差別化は ある ?

 (3) どのように
  ① 価格 → いくらで ?

  ② 立地・流通 → どんな場所・チャネルで ?

  ③ 販売促進・営業 → どうやって集客する ?

  ④ 調達・営業体制 → 仕入れ・外注先、製造、従業員は ?


 ★ 前回も書きましたが、全体の「整合性」「具体性」「実現可能性」が
計画の『確からしさ』を高めます。  また、計画を作成するにあたっては、

 ⅰ 自社の強み・弱み      [自社(Company)」

 ⅱ ライバル(競合先)の動向   [競合(Competitor)」

 ⅲ 顧客・市場のニーズ・動向  [顧客(Customer)」

 の3点をよく整理・(3C)分析してみましょう。(「綿密な情報収集」が大事です。)


 それぞれのポイントをもう少し掘り下げます。

 〇 取扱商品・サービス・技術・アイデア  (「何を」売るのか ? )
  ・ どのような特徴(セールスポイント)がありますか ?
  ・ 競業他社と差別化は図れていますか ?
  ・ それはターゲットとする顧客のニーズと合っていますか ?

 〇 対象とする顧客は、明確ですか ?   (「誰に」売るのか ? )
  ・ 相応(企業維持に必要な)の顧客数は見込めますか ?  (顧客の獲得方法は ? )
  ・ 想定している顧客のニーズと、セールスポイントに整合性はありますか ?

 〇 どのように販売するのか、明確になっていますか ?
      (「誰が」、「どこで」、「どのように」売るのか ? )
  ・ 事業計画を進めていくために必要な人材確保の見通しはありますか ?
     (必要な「有資格者」は確保できているか ? )
  ・ その販売方法は、実現可能ですか ?
     (計画している販売条件に、資金的、物理的に「無理」はないか ? )

 〇 販売条件・仕入条件は、明確ですか ?
  ・ 「掛売り」の場合には、回収条件に注意が必要です。
   → 十分な売上げが確保できても、仕入れ代金の支払いや、人件費や家賃等
     諸経費の支払いが先行すると、(追加の)資金が必要になります。
     (「損益(儲かっているかどうか)」と「キャッシュフロー(お金が足りる
      か)」は別であることを認識しておく必要あり。)
   → 現金販売でも、カード決済には(お店負担の)手数料がかかる。経費増加。
     また「在庫」の分だけ、お金は寝ます(資金が必要)。

  ・ 「掛仕入れ」の場合には、出金(支払い)を遅らせることはできますが、
    仕入単価が上がります(可能性が高い)。
   → 原価率が上がる。利益は減る。
  
  ・ 安定した(質・量・価格)仕入を確保するための、人脈も重要になります。


 ●  時々、創業予定の方から、お店のコンセプトとして「どこよりも良い品を、
   どこよりも安く提供します。」とのお申し出があります。
    確かに薄利多売もひとつの営業戦略ですが、それを実現するために、何が
   必要で、それが継続的に可能なのか。を考えてみる必要があります。
    例えば、親せきに農業、漁業、畜産業をやっている方がいて、良いものを
   いつでも安く仕入れられる。とか、ローンの無い不動産を所有しているので、
   家賃負担がかからないとか。これらは立派な強みです。
    強みがあれば生かしましょう。そこに強みが無いようなら、別のコンセプト
   を考えた方が、リスクは少なくなると思います。

 ここでひとつの事例として、「真夜中のパン屋さん」の" くれさん"のお店を、
当てはめてみましょう。

  店名『Boulangerie Kurebayashi』
    (ブランジェリーは、フランス語で「パン屋」の意味)
  立地 三軒茶屋から少し離れた住宅街(特に高級とは言えない)にポツンとある。
    (妻の実家の古い木造住宅の一階を改装した店)
  営業 午後11時から午前5時  木曜定休
    (立地と営業時間から、店の明かりはごく控えめ。香りで人を引き寄せる。)
     イートイン席あり。ガラス越しにパン造りを見ることができる。
  品揃え 入口の棚に、フランスパン3種類、バゲット、バターロール、食パン等
      左手の棚に、スイートブレッド、調理パン、アンパン、サンド等々
      レジに進む人を圧倒するような、おびただしいパンを陳列。
  売上構成・単価 ①店売り (80%)  フランスパン等 300円前後
                    調理パン、サンドイッチ 平均300円
          ②イートイン(10%) 客単価 800円
          ③近隣配達(10%)  客単価 1,200円前後
  セールスポイント 一度食べたら絶対にリピーターにする自信のある美味しさ
           (腕の立つスタッフを確保できている。
            修業中のオーナー"くれさん"と2人で稼働)
  コンセプト 毎日笑うためのパン。おいしいもんを食べると人は笑ってしまう。
        パン屋を始めたのは、「そういうパンを造りたかったから。」
  なぜ夜に ?  道端でも、公園でも、パンはどこでだって食べられる。
        囲むべき食卓がなくても、誰か隣におらんでも、
        平気でかじりつける。うまいパンは、誰にでも平等にうまいんや。

  いかがでしょうか ? (審査担当者としては「 ? 」の部分もありますが・・・。
            なお、単価等は私の想定です。)

  今回のポイント 「綿密な情報収集」と「優れたアイデア」で
           自分のセールスポイントを明確にする。
           そのセールスポイントに自信はありますか ?

  次回は、「5 従業員」「6 お借入れの状況」を説明します。

                            富太郎でした

第4回 「創業計画書のつくり方」②

参考

  『真夜中のパン屋さん』
   著者 大沼 紀子
   ポプラ文庫 全6巻

 創業計画書の中身に入っていきます。
 (「創業の手引き」は、11ページ。『創業の想いや事業経験の伝え方』です。)

 前回も少し触れましたが、まず大切なのは、計画書の作成(内容)が他人任せでは
なく、創業者自身で(も)考え、その考えに基づいて作成されたものであること。
 そして、その内容を自分の言葉でしっかりと説明できること。
だと思います。
 それができれば、創業の想いは審査の担当者に伝わり、理解を得やすいはずです。
 (ただし、計画の内容の『妥当性』がより大事です。"想い"だけでは乗り切れない
ケースが多々あります。)

 また、計画書は「創業の動機」「事業経験」「取扱商品・サービス」「取引先・
取引関係等」「従業員」「お借入の状況」「必要な資金と調達方法」「事業の見通
し」と8項目記入するようになっていますが、これらの項目内容はすべて関連・
関係していることを意識して作成してみてください。計画書の「確からしさ」が
高まります。

 それでは、個別の項目を順番に見ていきましょう。

 1.創業の動機
 (創業されるのは、どのような目的・動機からですか。)

 「なぜ(今)、このタイミングで創業されるのですか?」
 との質問の答えを、まず考えてみてから、手引きの4つの項目をチェックしてみて
ください。
 要は、準備不足はないですか?
 熱意や想いを日常の生活の中でどのように反映させてきましたか?
ということにつながります。
例えば、2  事業経験なら、「スキルは十分に身についていますか?」
    3 商品・サービスなら、「セールスポイントは何ですか?」
    4 取引先・取引関係なら、「販売先、仕入先に人脈はありますか?」
    5 従業員なら、「確保できていますか? あるいは、家族の協力は?」
    6 お借入れなら、「返済負担はどのくらいですか?」
    7 必要な資金と調達方法なら、「どのくらいの期間、積み立てましたか?
               あるいは、家族や身内の協力は期待できますか?」
    8 事業の見通しなら、「業界の実態に合った実現可能性の高い数字に
               なっていますか?」

 何かが足らなければ、「だからダメ」ということではなく、足らないことを
自覚して、自分なりに情報収集・研究・工夫し、対策を講じ、それを計画書に
反映させている。そこまでやって、強い熱意・意志といえるのではないでしょうか。

 創業動機は、"かつやさん"であれば、「子供のころからの夢を実現したいから。」
ということなのでしょうが、もう少し事例を具体的にするため、以降、私の好きな本
『真夜中のパン屋さん』のシチュエーションを使わせていただきます。

 サラリーマンであった"くればやしさん(通称「くれさん」)"は)、奥さまを不慮の
事故で亡くし、彼女の夢であった「パン屋開業」のため、勤務先を退職します。
 『死んだ奥さまの夢を代わりに実現するため』が、開業動機です。
 奥さまは、製パン学校を卒業し、イタリア、フランス、ドイツなど海外でも修業。
帰国して、さあ開業という直前に急逝しました。その意思を継ごうとしたのです。

 このような想いを書くには、スペースが足らないなら、面接時に"言葉"で補足
できるよう、『ご自身用の計画書』にできるだけたくさん、書き出してみましょう。
 審査担当者は、一生懸命あなたの想いを引き出してくれようとするはずです。
 (想いがはっきりしなければ、引き出しようもありません。)

 2  経営者の略歴等
 「勤務先名だけではなく、担当業務や役職、身につけた技術等についても記載して
ください。」と( )書きされています。
 職種、仕事内容、仕事上の立場等を『具体的に書いてくださいね』という事です。
 担当者は、創業する事業に活かせる技術、ノウハウをどのくらい身につけている
かを知りたいのです。

 1の「創業の動機」同様、セールスポイント(強み)、人脈、自己資金の準備状況
との兼ね合い、事業見通しが経験等を反映したものかどうか。
 また、これらから逆に経歴との整合性も、見えてくるものです。

 "くれさん"は、シンクタンク勤務後、アメリカの大学院を卒業し、国連PKOで
世界を飛び回っていた30代後半の人物です。
 危機管理等、経営者としての能力は、かなり期待できそうですが、パン職人の
経験はゼロ。パン屋開業のためには、パン職人の雇用が必須です。
 となれば、「事業の見通し」で、給与(人件費)の負担を計上しなければ、整合性が
取れないことになります。

 先にも書きましたが、『計画書の妥当性』が、融資判断の大切な要素となります。
それぞれの項目の関連性を意識して、『創業計画書』づくりを進めてください。

   今日のポイント
    ① 創業の目的、動機を明確にする。
    ② 創業する事業について、経験を積み、ノウハウを身につける。
    ③ 計画書は、項目間の関連を意識して作成する。

 次回は、「3 取扱品・サービス」から続けます。

                          富太郎でした。

第3回 「創業計画書のつくり方」①   

 今回から、「創業計画書」をどのように作っていくか、についてご説明します。
まずは、何のために「創業計画書」を作るのでしょうか?
その目的は、いくつかあると思います。
 ① 自分が考え、やろうとしていることを整理してみるため。
 ② 金融機関からお金を借りるのに、自分の計画の妥当性を説明するため。
 ③ お金等を出資してもらう協力者に対するプレゼンのため。

 「創業計画書」は、核(根っこ)の部分は当然同じなはずですが、①②③それぞれ
目的が違うわけですから、スタイル(形式、様式)も違ってくるはずです。

 ①は、自分の考えを整理するためのものですから、体裁にこだわる必要はなく、
何度でも、自分が納得いくまで書き直すこと(ブラッシュアップ)が重要です。
 また出来上がったら一度、ご家族やご友人などに客観的な目で見てもらうことを
お勧めします。その「計画書」は、他人が見ても「妥当だ」と言ってもらえるもの
になっていますか?

 ①が完成すれば、②、③は金融機関等、相手が求める形にアレンジするだけです。

 注意していただきたいのは、公庫や保証協会等には、計画書の『様式』が
あるということ。つまり相手が求めているのは(最低限)そこに記載すべき情報で、
必要があれば、足らない分は追加でその部分だけ依頼されるはずということです。
 公庫の創業計画書の様式はA3一枚。保証協会(東京)はA4三枚です。
一方、創業補助金(東京都中小企業振興公社)の申請書はA4二十枚です。
 求められている様式に合わせて計画書等は作成しましょう。求められているのが
ワンペーパーなのに、(熱意を示すため?)何十ページもの計画書の添付の効果は疑問です。相手(取引先)のニーズに合わせたサービス(商品)の提供が、事業
(商売)には必要だと(個人的には)考えます。

 また、検討するのに(最低限)必要な情報としての様式なわけですから、空欄や
求められていることと違う内容を記載しても用が足りず、担当者の補記が必要に
なりますし、事前に知っておきたい情報も、後付けの確認となるので、それだけ
結論が出るのにプラスの時間がかかると考えた方がよいでしょう。

 もう一つ担当者が困るのは、FCやコンサルタントの作成した計画書がそのまま
添付され、しっかりした内容ながら、申込人ご本人が内容を説明できない。または、
内容そのものを理解していないと思われるケースもある、ということです。
 計画の作成をFC等に協力してもらうのは、まったく問題ないと思いますが、
少なくとも内容をご自分の言葉で説明できる方が、その後の融資審査はスムーズに
進むのではないでしょうか。

 前置きが長くなりました。「創業の手引き」は8ページです。
今回は、計画書の全体像について説明します。各項目の詳細は、後日改めて。

 (1)全体像
  ① 「創業動機、事業の目的、将来的なビジョン」 について
     先日、読売新聞の「フリーランスという働き方への関心が高まっている」
    との『コラム』の中に、志村けんさんが著書(「志村流」三笠書房)の中で、
    独立するか迷っている人に三つの問いを立てている。
     ⅰ「何をしたいか、すぐに答えられるか」
     ⅱ「これだけは自信があるという特技はあるか」 
     ⅲ「他人から『ちょっと変わってるね』と、よく言われるか」
    一つでもノーがあればやめた方がいい、と書いている。
    との記事がありました。

    ⅲは、志村さん独特の感性(あるいは「お笑いの世界」の話)だとは思いま
    すが、ⅰとⅱは、第1回目の冒頭に書いた、創業のチャンスの在りかとして
    『やりたいこと』『できること』につながる考え方ではないかと思います。
    (プラス『ニーズがあること』)

  ② 「市場調査」 について
     中小機構(中小企業基盤整備機構)の『J-Net21』というサイトの「業種別
    開業ガイド」というコーナーがとてもよくできています。私もインストラ
    クター時代、審査の新人たちに、これを使って業種の勉強をするようにと
    アドバイスしていました。
     余談ですが、金融機関の職員は『業種別審査事典』という「きんざい
    (金融機関向けの本や雑誌を出している会社)」の本(CD-ROM)を使っている
    ことが多いです。ただ、セットで20万円位するようです。
    大きな図書館には、置いてあるものなんでしょうか。

  (2)具体的な事業計画、(3)資金計画、(4)収支計画 については、
 後日、各項目のところで説明いたします。

    今日のまとめ 『創業計画は、納得いくまで練る。』

  次回は、創業計画書の 『1 創業の動機』 『2 経営者の略歴等』について、
 解説予定です。

                         富太郎でした。

第2回 創業前のチェックポイント
前回の続きです。

 子供のころの夢である「パン屋さん」の開業を決意した"かつやさん"は、証券会社の営業ウーマン"すずめ"のサポートを受けながら、準備を始めます。

 まずは"すずめ"の用意してくれた日本政策金融公庫の『創業の手引き』を見ながら、計画を現実化させていこうと考えます。

 目次に続いて、「創業前のチェックポイント」というページがありました。(P3)  「事前にどのくらい検討し、準備したかが創業後の計画を左右します。」
と書かれています。

 『どうしたら新しく開いたお店が上手くいくか』じゃないんだ。
ちょっとがっかりしながら、フローチャートを始める"かつや"さん。

 Q『動機は明確ですか?』
  A1 子供のころからの夢だから。
   (本当は、勤務先の会社の経営状況が芳しくないから。)
  ⇒ 夢だけで、これから起こるであろういろいろな困難を乗り越えられますか?
  A2 製パンの専門学校を出て、将来の独立に備えて何軒かの店で修業をし
    自分でやっていける自信が持てたから。
  A3 バンづくりが好き(趣味)だから。家族や友人においしいと褒められる。

 Q『創業する事業について、経験や知識はありますか?』
  A1 ずっとサラリーマンだったから、「経験・知識」と言われてもねぇ。
    FCのほうがいいのかなぁ?
  A2 学生時代、パン屋さんの製造部門でアルバイトをしていました。
  A3 いつかパン屋さんをやりたくて〇年間パンメーカーで勤務していました。
       ・仕事は主に営業です。
       ・仕事は主に製造現場です。
       ・仕事は主に経理です。
       ・小さな会社なので、仕入れ、製造、販売すべて任されていました。

 Q『事業を継続していく自信はありますか?』
  A1 (最近、年のせいか気力・体力が今一つなんだけど)
    生活のために頑張ります。
  A2 長年の夢をかなえるためなら、石にかじりついてでも頑張ります。
  A3 コンクールで賞もとっているので、100%自信があります。

 Q『家族の理解はありますか?』   奥さん(ご主人)の反応は、
  A1 勝手にやって。反対はしないけど、生活費だけは入れてよね。
  A2 一緒に手伝うよ。思うようにいかなければ、私が働きに出て支えるよ。
  A3 私より、妻(夫)の方が張り切って準備しています。

 Q『創業場所は決まっていますか?』
  A1 いい場所が見つかったので、とりあえず手付を打って押さえました。
  A2 ちょっと場所は悪いけど、家賃が安いので、ここにしようと思います。
  A3 いくつか候補はありますが、全体の費用や、何度が足を運んでから決めよ
    うと思います。
  A4  家賃がかからないように、自宅の一部を改装してやろうと思います。

 Q『必要な従業員は確保できますか?』
  A1 人件費をかけないために、はじめは夫婦だけでやります。
  A2 自分と、忙しい時だけアルバイトを雇います。
  A3 自分には製造技術がないので、パン職人を雇います。
  A5 FCに任せています。

 Q『セールスポイントはありますか?』
  A1 これから身に着けます。
  A2 腕の良い職人さんを雇います。
  A3 FCのネームバリューです。
  A4 長年の勤務経験を活かします。

 Q『売上高や利益などを予測してみましたか?』
  A1 FCの計画では、儲かるはずです。
  A2 前の職場の経験から、その通りにやれば、利益は出ます。
  A3 お客さんがつくまでは、赤字かもしれませんが、腕には自信があるので、
    半年後には利益が出るはずです。

 Q『自己資金は準備していますか?』
  A1 開業資金は借入れで開業しようと思っているので、ほとんどありません。
          (自宅を所有しています。住宅ローンもありますが。)
          (去年、新車をローンで買いました。)
  A2 少しずつですが、長年積み立てで貯めてきました。
  A3  親が出してくれると言っています。

 "かつやさん"はどのように答えたのでしょうか。
 証券会社の営業担当が、自宅を訪問するくらいですから、少なくとも
お金(自己資金)はかなり持っていると思われます。

 いかがでしたか?
 「こんなあやふやな計画で、開業しようとする人なんていないよ。」
 と、おっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。

 でも、実際に私が創業資金の審査をし、あるいはインストラクターをしていると
きに、このような「?」という回答をされる方も、少なからずいらっしゃいました。

 今一度、ご自身について『正直な』チェック結果を確認してみてください。

 こうだから、上手くいかない。これなら絶対大丈夫。という訳ではありませんが、
リスクはできるだけ減らすに越したことはないと思います。

 次回は、『事業計画の作成』に入っていきます。

                  インストラクター富太郎でした。




第1回 エピローグ
 現役だった頃、本業は審査インストラクター(新人に審査を教える仕事)でしたが、
「ビジネスサポートプラザ」のお手伝いで、相談員をしたことがあります。

 相談コーナーの机の上には、「(あなたの)やりたいこと」「(あなたの)できること」「世の中のニーズ」。この3つの重なり合ったところに、創業のチャンスはある。という趣旨のペーパーが置かれていました。

 この3つのどれが欠けても、創業は上手くいかないと思います。


 そこで、まず創業がらみの某大手証券会社のテレビCMを題材にお話を始ます。

 新人営業ウーマンの"すずめ"が、お得意様を訪問して子供のころの夢を聞かせてもらいます。

「パン屋さんになりたい。」と小学校の卒業文集には書かれていました。

『正直ちょっと不安が・・・』というご本人("かつやさん")。
『まだ夢をあきらめきれないのよね』と奥様。奥様も反対はしていないようです。

『いろいろ考えさせてください。人生100年』
とライフプランのお手伝いを買って出る"すずめ"。

"ちあき"先輩にも、『Good Job ! 』と褒められます。


   場面が切り替わって、開店後。

   "かつやさん"のパン屋さんは繁盛店になっています。


 "すずめ"『すご~い ! 大人気ですね。Good Job です。』

  "未来って いい匂いがする" 『それ〇〇〇に聞いてみよう♪♪♪♪』
 で、終了。

 お得意様の夢をかなえる。
新人営業ウーマンとして、"すずめ"は、Good Job です。

 ただ、こと「創業」するという視点からすると、
お金さえ用意できれば、お店を開くことはできます。

 この「場面が切り替わる前と後」の間に
    どのように準備をして、
    どのように現実化されていったのか。

 創業された"かつやさん"にとって、Good Job かどうかは、
開店するだけではなく、お店を維持していけるかどうかが重要だと思います。

 次回から、このCMの「場面の切り替わり」の間に、
"かつやさん"がどのように夢を実現させたか。あるいは、(実現できなかったのか)
想像(検証)しながら、公庫の『創業の手引き』に沿って、
お話を進めていきたいと思います。

「それ、富太郎に聞いてみよう♪♪♪♪」(失礼)

                        第1回 終了