審査虎の巻

審査担当者になる(なった)君へ
 元気でご活躍のことと思います。
人生の後輩である君に、「審査インストラクター」であった私の、経験と知識を少しでも
伝えることができればと思い、このページを開設しました。
 お客さまは、新人だからと大目に見てはくれません。                    家族や従業員の方の生活が懸かっているんです。
そういう自覚をもって、日々取り組んでください。審査担当者として
「一人前」を目指す君の成長に、少しでもお役に立てれば幸いです。
     「初心忘するべからず ! 」       スパルタ富太郎

  説明を終えて(あとがき)
 お疲れさまです。現役時代、口頭で質問を受け、表情を見ながら説明するのとは違い、
文章で、限られたスペースに、一方的に記載したので、解りにくかった点が多々あるので
はと、危惧しております。疑問等、遠慮なく(お手数ですが)メールで送信してください。
 いつか、「Q&A」としてまとめて掲示できればと思います。また、ちょっとだけ長く
社会人生活を送りましたので、「お悩み」等もメールいただけば、ヒントくらいは差し
あげられるのではないかと・・・(その自信はどこから来るんだ○○○!!!)
 お待ちしています。   ☝「お便り・ご質問・お問い合わせ」のページへ

第10回(最終回) まとめ② 「お客さま面談時の留意点」
 『まとめ』の後半、「面談時の留意点」を説明(復習)します。

 一 お客さまの本音を引き出すには、どうしたらよいかを意識する。
   事前準備で立てた『仮説』を裏付けていく。仮説の修正には躊躇しない 一
   
 まずは審査担当者としてというよりも、人として、相談者の方に「思いやり」を
持って接してください。

 慣れない申込で緊張して来店する経営者の方も多い。あなたも緊張するだろうが、
緊張を和らげるあいさつ、会話(アイスブレイクといいます。)、笑顔の応対を
心がけてください。

 また、最初のうちは、年上の方ばかりでもありましょうし、その事業に関しては
相談者はプロなのですから、「教えていただく」という、尊敬の念をもって面談して
ください。くれぐれも「取り調べ」のような雰囲気にはしないように。

 前回「事前準備」のところでも書きましたが、事前準備をしても解らないところが
「面談時」に聞くべきポイントであり、確認すべき資料です。

 時間は限られています。優先順位をつけ、『大きなところ』『主なところ』に
漏れがないように留意して進めてください。

 また、事前にいただいた資料では把握できない『直近』の数字・情報の確認が
重要になります。
 ポイントは、以下のとおりです。
 ① 『直近の主要勘定』の「帳簿・原始資料」による確認
  → 売上帳、その他の資料から、直近の売上や事前準備で把握した「異常値の
   ある科目」の動きを確認し、面談者から補足の説明を受ける。

 ② 直近の預金の確認
  → 直近の売上金額の妥当性、売掛金の回収状況、買掛金や借入・税金等の
   支払い状況などを確認する。
  → 「違和感のある数字(記帳)」については、後回しにせず、その場で通帳等を
   示して、説明を受ける。
   (そのためにも、事前準備で「あたり」をつけておくことが必要。)
  → 法人の場合、代表者の個人預金も確認させていただくことにより、
   資金補填力も把握する。

 ③ 直近の借入金の把握
  → 決算との比較(個人企業の場合は前回調査時との比較)、返済条件、保全条件
   他行の融資スタンスに関するヒアリングにより、資金調達力(特に「折り返し
   融資」の可能性)を推察する。
  → 他行借入(余力等)に確信が持てず、それが融資の可否判断の重要ポイントに
   なる場合には、(上司に相談のうえ)他行の担当者にヒアリングをしてよいか、
   経営者に了解をいただく。


 最後に、スピーディーな処理が最大の顧客サービスになります。
担当したお客様のお取引の状況、実態財務の内容等に応じ、メリハリをつけて迅速な
処理を心がけてください。教科書どおり一から十までやる必要はないはずです。
(初めのうちは「勉強のために」教科書通りの調査を指示されるかもしれませんが。)
 くどいですが、『事前準備』が重要です。事前準備に全力を傾けてください。
 
 そして、一日も早く「審査のプロ」になるために、日々の努力(勉強、情報収集)を
怠らないでください。自分で調べても解らないことは、一人で悩まず、遠慮せずに
先輩・上司に教えを乞うこと(但し、同じことは一度だけ。)。
 先輩たちも、みんなそうして一人前になったのです。

 蛇足ながら、「創業審査」に関しては別ページ☝『創業寺子屋』を参考にして
ください。

 以上で終わります。お疲れさまでした。

 また、何か別のテーマで情報還元できればと思っています。

 では、またいつか。          頼むぞ、若者 !     富太郎

第9回 まとめ① 「事前準備の留意点」

  今回から2回に分けて、これまでの『まとめ』として、「審査の流れ」を
 復習します。
  1回目は「事前準備時」、2回目は「面談時」の留意点です。

  一 申込時に得られる情報はフル活用し、
  「不自然な数字を見つけるための作業」により調査のポイントを整理する 一

  ベテランの審査担当者になると、決算書を見ただけでその企業の問題点を
 ある程度瞬時に把握できるようになります(数字が浮かび上がってくる)。
 
  新人のうちは、決算書のどこに何が書いてあるかも、探し探しになる人が
 多いので、「調査ポイント」の把握に時間がかかるのはある程度やむを得ません
 が、だからこそ「事前の準備をしっかりとして」調査のポイントを整理してから
 お客様と面談することが、審査をするうえで何よりも大切になります。

 「事前準備の良し悪しが審査の質を左右する」と言っても、過言ではありません。

  また、準備不足は、後日の「追加質問」「追加資料の依頼」等、お客様にいらぬ
 負担をかけますし、大切なサービスである「スピード」も損ねます。

  何よりも、担当者として「審査を進めることができない」立ち往生の状態に
 しないためにも、『事前準備』はしっかりと行いましょう。
 (忙しくて「調査中の案件」が増えたときは、尚更です。富太郎の実体験より。)

 (1) 定量面 「決算書の評価点・問題点を把握する」
  ① 「実質的な利益(正常収益力)は上がっているか?」
      (当期純利益に減価償却費を加算したものが、返済財源になる利益)

  ② 「財務体質(実態バランスシート)は健全か?」

  ③ 「不自然な数字を見つけるための作業」
   ⅰ 数字は、「大きなところ」「主なところ」から『掴む』
   ⅱ 「前期決算」(「前回調査」)「同業他社」と『比較』する
   ⅲ 「時価(決算上の数字を実質価格に評価替えしたもの)」を『把握』する
   ⅳ 「代表者勘定(資産・負債勘定、家族構成・個人負債等)」を把握勘案する
   ⅴ 『程度問題(「1か月」にすると、どれくらいか)』を考える
   ⇒ 「おかしいな」と気づくことが、大事。
    (「おかしいな」と気づけるための『引き出し』を増やす努力を、ぜひ)
   ⇒ 決算の信憑性の確認 = 必要に応じ、帳簿や原始資料(通帳、請求書、
                 領収書等)は、決算書の裏付けになる

  〇 気づきのヒント
   ⅰ 売上の推移は、増加傾向か、減少傾向か?(恒常的か、一時的か?)
   ⅱ 黒字か、赤字か?(減価償却費や役員報酬の削減で、カバーできるか?)
   ⅲ 事業規模(月商)と、申込金額にアンバランスはないか?(資金の必要性)
   ⅳ 借入返済、納税状況に遅れはないか?
   ⅴ 支払利息が有利子負債に比べて多くないか?(高い金利の借入?)

 (2) 定性面 「ヒト・モノの評価点・問題点を把握する」
  〇 決算書ではわからないことは何か? (活用するもの)
   ⅰ 取扱商品、サービス内容、価格、特徴、セールスポイント等(会社のHP)
   ⅱ 代表者以外の実経者の有無(確定申告書別表二/株主)(会社謄本/役員)
   ⅲ 経営者の年齢、家族構成(申込書等) → 「後継者」の検討の要否
   ⅳ 不動産所有状況、担保の設定状況(不動産登記事項証明書)

   ⇒ 自分で事前に準備できないものが、面談時に「お願いする資料」であり、
    「教えていただく質問事項」です。

 (3) 資金使途を把握する
  〇 融資の申込みには必ず『理由』がある。
   ⇒ 資金使途にその企業が今抱えている問題点や今後の改善策が集約されて
    います。「なぜカネが要るのか?」を常に意識してください。

  〇 仮説を立てる
   定量面(1)、定性面(2)の準備から、「資金使途」「今後の見通し」について、
   担当者なりの仮説を立て、明確化した『調査ポイント』について、ヒアリング
   項目を整理し、面談に臨んでください。

 今回のポイント
  ・事前準備は入念に
  ・審査は、事前準備を中心に仕事を回す

 次回は、「面談時」の留意点について説明予定です。

             次回で一度完結予定ですよ。  富太郎


第8回 定性面(非財務情報)
 
         一 企業の評価要素(宿題) 一  
   問 題  
    Q 企業は「人」「もの」「金」と言われるが、
     「人」「もの」「金」のうち、どれが『定性面』で、どれが『定量面』
      に分類されるか? それぞれ、どのような「評価要素」が考えられるか?
    A 「人」 ~ 定性面
          評価要素=「経営能力」「人柄・資質」「組織運営」
      「もの」~ 定性面
          評価要素=①経営活動「営業設備」「技術・商品競争力」
                    「販売・仕入基盤」「資金調達力」
               ②経営環境「業歴・業界地位」「立地条件」
                    「業界動向・業界見通し」
      「金」 ~ 定量面
          評価要素=「収益性」「安全性」「成長性」

   参 考
    経産省で出している『企業の健康診断ツール(ローカルベンチマーク)』では
   「財務情報・6つの指標」
    ① 売上高増加率 (成長性)
    ② 営業利益率 (収益性)
    ③ 労働生産性 (生産性)
    ④ EBITDA有利子負債倍率  (健全性)
      [イービットディーエー=(簡易)[営業利益+減価償却費]÷有利子負債
    ⑤ 営業運転資本回転期間 (効率性)
    ⑥ 自己資本比率 (安全性)
   「非財務情報・4つの視点」
    ① 経営者への着目
    ② 関係者への着目
    ③ 事業への着目
    ④ 内部管理体制への着目
    が、『評価要素』になっています。

       一 「定性」調査で何を確認するか ? 一
  (1) 人
   ① 経営能力
    ・経験、判断力、リーダーシップ等
   ② 人柄・資質
    ・係数観念(債務観念)、健康状態、公職、(金のかかる)趣味の有無等
   ③ 組織運営
    ・従業員、家族、後継者等

  (2) もの
   ① 営業設備
    ・生産能力、稼働状況、購入時期、価格、耐用年数
   ② 技術・商品競争力
    ・取扱品の(他社比較)強み弱み、サービス内容、品質・機能、価格、
     商品・仕事・お金の流れ、生産工程
   ③ 販売・仕入基盤
    ・主な販売先、仕入れ先との取引のきっかけ、結び付き、安定度
   ④ 資金調達力
    ・不動産所有の有無、個人預金の有無、その他資金調達力見込み
   ⑤ 業歴・業界地位
    ・内部留保との整合性、競合関係内のランク(上位・中位・下位)
   ⑥ 立地条件
    ・業種業態との適合性、付近同業者の有無(競合状況)
   ⑦ 業界動向・業界見通し
    ・業種の成長性
   
  これらのことを、経営者の方から教えていただくのはもちろんのこと、
 インターネットのHP、住宅地図、不動産や商業登記事項証明書、業種別審査事典
 自行内の取引先の情報等を活用して、イメージを作り上げてください。
  また、新聞等で経済情報、地域情報にもアンテナを張ってください。
  そして、実際に現場に足を運び、自分の目で確かめてイメージを裏付けることも
 とても大切です。
   
  最後に、これまでに何度も言ってきたことですが、常に『定量』『定性』
 『使途』は繋がっているということを意識してください。

  次回は、これまでの『まとめ』として、「審査の流れ」を復習します。

  宿 題
   今回までの内容を、よく復習しておく。

             自分でも、もう一度見直します。   富太郎

第7回 資金調達力 

         一 与信関係費用 (宿題) 一    
  問 題
  Q1 『与信関係費用』とは何か?
     それは、金融機関の経営に、どのように影響するか?
  A (読売新聞記事「地銀 苦境鮮明」より)
    銀行が企業にお金を貸しても、返済されないことがある。一部でも焦げ付く
   可能性がある場合は、「与信関係費用」を計上しなければならず、銀行の
   利益を押し下げる要因になる。
    代表的なのが、「貸倒引当金」だ。例えば、10億円を貸していても、
   融資先の企業の経営が悪化し、7億円しか返済されそうにないと考えれば、
   3億円の引当金を計上する。
    企業が破綻して、融資が回収できなくなれば、『償却」という会計処理を
   する必要がある。これも与信関係費用に含まれる。
    逆に融資先の経営が良くなったときは、過去に計上した引当金を取り崩す。
   銀行の損益にはプラスに働く。
    富太郎注:今回のコロナ関連融資については、金融庁等が「銀行に引当金の
   計上の先送りを認める方針」を示しているとのこと。

  Q2 小規模企業の借入と、関係はあるのか?
  A 業績・財務内容(正常収益力・実態バランスシート)が悪いと、「与信関係
   費用」をたくさん計上しなければならないため、融資が受けにくくなるか、
   融資を受けられても、金利等融資条件が厳しくなることが考えらます。
    すでに融資を受けていて、業績・財務内容が悪化すると、『経営改善計画』
   の策定を求められる。理由等詳細は後述します。
    なお、価値のある担保が入っていたり、保証協会付きの制度融資の残高は、
   「引当金」の算定基礎から除外されるケースがあります。

    前回まで説明してきたように、資金収支がマイナスでも、
   ⅰ (代表者の)個人の資金や、事業以外の収入の投入による補填
   ⅱ 『資金増減の原則(「資産の現金化」「負債の繰延)」)』による補填
   ⅲ 金融機関からの借り増しが可能。
   ⅳ 借り増しができないときでも、いわゆる「折り返し融資(借り替え)」
   等が可能であれば、資金繰りが成り立ち、企業維持は見込めます。

    したがって、「今後も資金調達力が見込めるか?」、最終的には「折り返し
   融資」の可否が、小規模企業では融資判断の最大のポイントになるケースが
   多いです。
    では、どのようなケースで「折り返し融資」を断られる可能性が出てくる
   のでしょうか。

            - 債務者区分 -
    
  『自己査定』という言葉を聞いたことはありますか?
 自己査定というのは、各金融機関が、自行の取引先1社1社の「営業実態」と
 「保全状況」により「資産分類」を行い、貸出資産の価値を評価して、いくら
 「引当金」を積まなければならないかを確認する作業です。

  したがって初めに取引先(債務者)の実態的な財務内容(正常収益力・実態
 バランスシート)、資金繰り等により、その返済能力を検討し、貸し出し条件や
 その履行状況等を総合的に勘案し、判断するのが『債務者区分』です。

 『債務者区分(読売新聞記事による。引当率は金融機関ごとに異なる)』には、
 ① 正常先 [引当率 ほぼ計上しない(ゼロではない)]
    経営が健全
 ② 要注意先 [引当率 数%~40%程度]
    返済が遅れているような先
 ③ 破綻懸念先 [引当率 50%~70%程度]
    破綻しそうな先

 少し補足すると、一般的に(中小企業大学校で教わった内容)は、以下のとおり。
 〇 要注意先 ⇒ 今後の債務に注意を要する債務者
    ・元金、利息が事実上延滞しているなど、履行状況に問題のある債務者
     (返済条件変更(リスケ)先)
    ・「業況が低調ないし不安定」な債務者
       → 例 ・赤字(赤字企業でも、ア.原因が「固定資産売却損」な
               どの一過性のものであり、短期間に黒字化するこ
               とが確実と認められる。 イ.中小・零細企業で
               返済能力について特に問題がないと認められる
               ケースでは「正常先」と判断される可能性あり。)
           ・キャッシュフローがマイナス
           ・黒字でも、債務償還期間(ザックリ言うと有利子負債を、
            経常利益(本業の利益)何年分で完済できるかの年数)
            が長期(10年超)
    ・「財務内容に問題がある」債務者
       → 例 ・債務超過(ただし、短期(3年~5年)で解消見込みの
            ある場合を除く

 〇 要管理先 ⇒ 要注意先のうち、ⅰ、ⅱいずれかに該当する債務者
    ⅰ 3か月以上延滞(下記で説明するランクアップ不可)   
    ⅱ 債務者に有利な取決め(元本返済猶予、金利支払猶予、金利減免等)
      かつ 基準金利と同等の利回りが確保されていない

 〇 破綻懸念先 ⇒ 今後、経営破綻に陥る可能性が大きい債務者
    (「業況が著しく低調(実質債務超過で、短期(3年~5年)で解消の
     目処がない)」で、貸出金が延滞状態にある等、元金および利息の最終
     回収について重大な懸念がある。)
    ・ 経営難の状態
    ・ 「経営改善計画」等の進捗状況が芳しくない(売上高および利益が
      「改善計画」に比して、概ね8割以下)

 なお、自行内の基準(取り決め)を各自確認してください。

  いかがでしょうか。業績、財務内容の厳しい企業に融資すると、受取金利よりも
 経費計上しなければならない「引当金」の方がはるかに大きくなるとなれば、
 これまでの融資実績があっても、すんなりと「折り返しにくい」ケースも出てくる
 ということがお解りいただけましたでしょうか。

  ただし企業のためでもあり、金融機関のためでもある方策が『経営改善計画』
 の策定です。詳細は別の機会に譲りますが、『合実計画(合理的で実現可能性の
 高い経営改善計画)』を策定し、取引金融機関全行が承認すると査定が1ランク、
 中小企業では2ランクアップ(「破綻懸念先がその他要注意先」に。「要管理先
 なら正常先」に。)できて、引当金がグンと低くなるという制度があります。
  これが先ほど少し触れた、業績が悪くなると「経営改善計画の策定を求めら
 れる」理由です。
 
  以上のように、融資の判断をするということは単に自行で「貸す、貸さない」
 というだけではなく、「他の金融機関がその企業をどう見ているのか」まで視野
 に入れて進めていく必要があります。

  次回は、企業を評価する場合の「数字以外」の部分。『定性面』についてご説明
 します。何回も言いますが『定性面』『定量面』『使途』は、つながっています。

  宿 題
 〇 企業は「人」「もの」「金」と言われるが、「人」「もの」「金」のうち、
  どれが『定性面』で、どれが『定量面』に分類されるか?

 〇 それぞれには、どのような「評価要素」が考えられるか?


  そろそろ、まとめに入ろうと考えている  富太郎


第6回 正常収益力と実態バランスシート③

           一 資金収支 (宿題) 一  

 問 題  次のケースで、『1か月に資金はいくら必要 ? 』でしょうか。
 ・ 月商 10,000千円 ・ 原価率 60 %  ・ 月経費(支払利息込) 3,000千円
      ( うち、減価償却費 500千円 )  ・ 月返済借入元金 2,000千円
    注  売掛、在庫、買掛等の増減は考慮しないものとする

 〇 まず、損益計算は、
   売上 10,000千円 - 原価 6,000千円 - 経費 3,000千円
   = 利益 1,000千円

 〇 では、資金の収支(キャッシュフロー)は、
   増加要因(利益 500千円 + 減価償却費 500千円) - 
   減少要因(借入返済元金 2,000千円) = 収支 ▲1,000千円

 と、答えは1,000千円のマイナス(不足)になります。
 損益計算では、利益が出ているのに、お金は不足する。
 まさに、勘定合って、銭足らずの状態です。

 で、どうやって資金を補填して資金繰りをつけたかは、第3回で説明した
『資金増減の原則』によるわけです。


 それでは今回の本題、「実態を反映していない数字の見つけ方」に
入っていきます。

 要は、『おかしな数字はないか?』という目で、決算書を見るということです。
簡単でしょう? では、おかしな数字って何。
 ・ お客さんの申し出の取引条件から推定される数字と、決算書上の数字が整合
   しない。
   → 翌月には入金(支払い)されるはずの売掛金(買掛金)が、月商の
    (月原価の)何か月分もある。
 ・ 前年度の決算書と比べて、売掛金、買掛金が異常に増えている。減っている。
 ・ 同業種の指標の平均月数に比べて、在庫が異常に多い。少ない。
 ・ 在庫の対月商比が前年度と比べて、急増、急減している。
 ・ 主要勘定以外の勘定(未収金、前払金、未払金等)の数字が、(月商比)
   あまりにも大きい。あるいは、前年度比で急増、急減している。

  ただし、月の売上や仕入れの金額は、毎月均等ではないので、決算月の前の月の
 売上や原価の数字を把握して、修正のうえ比較してみることも必要です。

 また、実態を反映していないと言っても「簿記の原則」にのっとって作成された
決算書であれば、まったくでたらめな数字が計上されている事は、まずありません。

 では、なぜ実態を反映しなくなってしまったのでしょうか。考えられるのは、
 ① 不良債権や、商品の陳腐化等で、決算の数字が実態の数字と合わなくなって
   しまっているケース
 ② 表面上の利益を出すため、意図的に数字をいじって残高を実態と合わなくして
   いるケース
 ここまでは、前回やりました。さらに、
 ③ 資金繰りの関係で、支払いの繰り延べ等をしているケース。
   例えば、モノを仕入れて「支払いは翌月に」となっているのに、お金がなくて
  支払いが翌々月以降になってしまっていれば、買掛金は推定仕入原価の1か月分
  程度のはずが、2か月分にも3か月分にも膨らんでいるような場合です。

  このような観点から見て、資産勘定に載っていても、「お金になりそうもない」
 金額を差し引いたものが、前回ご説明した通り『実態財務』になります。

  ③のケースでも、仕入れ先が待ってくれるのであれば、それはそれで「企業間
 信用」と言って強みともいえるのですが、待ってくれなくなったらどうするのか。

  また、そのような状態になってしまった原因の把握と、解消の見込みの有無も
 融資判断のための、重要なポイントになります。
 ・ 売掛金の回収には2か月かかるのに、支払いは翌月なのでお金が先に出ていく
   ため資金不足に。 → 取引条件の変更の可否。
 ・ 顧客ニーズを見誤り、過剰在庫を抱えたため。 → 在庫削減の可否。
   (在庫を捌けても、無理に販売すれば、原価率が上がり収益を圧迫します。)
 ・ そもそも欠損。あるいは資金収支がマイナスで資金が常に不足するため。
   → 欠損の解消見込み。継続的な資金調達(「資金繰り償還」といいます。)    の可否。
   ⇒ だから今回借入の申込みがあった訳で、今回融資しても、原因が解消しな
    ければ、また資金は不足します。
     それは、どのくらい先か。
     その時、自行で追加融資はできるのか。
     自行で追加融資が難しければ、他の金融機関からの借入可能性はどうか。

   上記の宿題の例(数字)で考えてみましょう。
  今回、10,000千円(月商分)の融資(手取り)をしたとします。
  (毎月の返済元金を増やさなかったとして)月々の資金収支のマイナスは、
  1,000千円なので、10か月で今回融資した資金はなくなります。
   その10か月以内に、また自行を含め、どこかから資金調達ができますか?
  できなければ、どのようにマイナスを補填しますか?というのを検討するのが
  小規模企業の「融資(運転資金)審査」だと言っても過言ではないと思います。
   当然、マイナス補填のための、数字以外の面(定性面)も重要な要素です。
  
 次回は、他の金融機関からの融資可能性をどう考えるかについて、説明予定です。


  宿 題
   『与信関係費用』とは何か?
   それは、金融機関の経営に、どのように影響するか?
   小規模企業の借入と、関係はあるのか?


   理解してもらえているか、ちょっと不安でテストをやりたい  富太郎


第5回 正常収益力と実態バランスシート②

         一 損益分岐点売上高 (宿題) 一
  問 題
                     ヒント B.E.Pは何の略でしょう ?
                       ⇒ Break Even Point
  ① 「損益分岐点売上高」の数字の意味は ?   
    ⇒ 売上高と、総費用が等しくなり、利益・損失ともにゼロの地点での
     売上高のこと。
      すべての費用を回収するのに、必要な売上高をさす。

  ② 利益を増やすためには、
    ⅰ 売上を「増やす」
    ⅱ 原価率を「下げる」
    ⅲ 経費を「減らす」

  ★ 財務分析をするために、忘れてはいけない基本中の基本です。
    当然、頭に叩き込みます。

  式は
     BEP = 経費 ÷ ( 1 - 原価率 )

 今回のテーマに入ります。
 
       一 「実態バランスシート」 一

 決算書の「資産」「負債」勘定から、資産性のないもの、負債性のないものを、
除いたものが、「実態バランスシート」です。
 真の『体力』を表し、資金調達力にもつながっていきます。

 なぜ、資産性のないもの、負債性のないものが決算書の中に混じっているのか ?
経営者の意図と関係なく発生してしまうケース(1)と、意識的に(?)発生している
ケース(2)とが考えられます。

 (1) 意図せず発生 の例
  〇 資産勘定 (資産性なし)
   ・ 売掛金 → 回収のできない債権(売掛先の不調、倒産)
           前期から数字に変動のない取引先の売掛金は要チェック
   ・ 在庫  → 商品の陳腐化による、価値の下落、無価値化
   ・ 不動産 → 価格の下落
   ・ 投資有価証券・ゴルフ会員権 → 価格の下落、無価値化
   ・ 繰延資産 → 費用性資産(先行費用、換金価値はない)

   ⇒ 損金勘定で落とすこともできたはずだが、利益が出ていないケースでは
    まずやっていない。

  〇 負債勘定 (負債性なし)
   ・ 代表者(役員)借入金、未払金 → 当面返す必要がない場合

   ⇒ 金融機関からの借入が増えて、こちらが減っていたら逆に要注意。
    理由を確認する必要あり。(「負債性なし」とは言えない。)

 (2)  意図して発生 させている例 (いわゆる「粉飾決算」)
     注意!! いわゆる粉飾決算があるからと言って、それだけで「貸せない」
        と判断するのは早計。程度と理由(例:取引先との関係)による。
        「粉飾」があっても、返済が見込めるケースも、多々ある。
        状況をしっかりと把握し、悩む場合は、早めに上司と相談のこと。

  〇 資産勘定
   ・ 現金 → 「なんでこんなに現金を持っているの」というケース
          現金は、反対勘定として「架空売上」や「経費等隠し」に
          使われやすい。(多くの現金があれば、借りには来ない。)
   ・ 売掛金 → 「架空売上」
           「完成前(仕掛)仕事」の「売上計上」
           「前受金(負債勘定)」の「売上計上」
            取引先からの「借入金」の「売上計上」
   ・ 在庫 → 「架空在庫」 → (前回やった) 原価率操作 (低減)
   ・ 費用性仮払金等 → 「経費の繰延、資産化」
   ・ 固定資産 → 「減価償却不足」
          (土地は、逆に簿価よりも時価の方が高いケースあり(含み益)
          「含み益」は、資金調達力には影響するが、正常収益力とは
           無関係。)

 ★ 前回の宿題、「損益分岐点売上高」に上記の(粉飾)操作がどのように影響して
  いるか、一つずつ当てはめてみてください。
   すべて、「利益の増加」につながっていきますね。しかし、実際には利益は
  出ていないわけですから、資金が必要になるのです。

 次回は、「実態を反映していない数字の見つけ方」について説明します。
 『おかしいな』と思えるかどうかが、ポイントです。


  宿 題
   次のケースで、『1か月に資金はいくら必要 ? 』でしょうか。
    ・ 月商 10,000千円
    ・ 原価率 60 %
    ・ 月経費(支払利息込) 3,000千円
       ( うち、減価償却費 500千円 )
    ・ 月返済借入元金 2,000千円
    注  売掛、在庫、買掛等の増減は考慮しないものとする。

  「損益」と「キャッシュフロー」は別物です。 ちょっとくどい 富太郎

第4回 正常収益力と実態バランスシート

       一 損益とキャッシュフロー (復習) 一

 前回の宿題について考えてみましょう。

 問 なぜ欠損が続き、自己資本がマイナスでも、資金ショートせず、
   存続できるのか?

 いろいろな理由が考えられる思います。
 もしかしたら、(税金逃れのために)わざと売上を減らしたり、経費を
増やしたりして、赤字の決算書を作っているのかもしれない。
 
 または、前にも書いた「損益」と「キャッシュフロー」の違いによる理由。
 例えば、前回説明した「減価償却費」という経費に計上されていても、実際には
お金は出ていかない勘定の存在。

 同様に、前回しつこく書いた『資金増減の原則』から考えてみると、
役員報酬(経費)を計上していても、実際には払っていなければ(未払金として計上)、
お金は出ていかない。
 
 あるいは、商品や材料を仕入れても、掛けで仕入れて、決算段階でも「買掛金」
のままであれば、お金は出ていかない。

 当然、借入をして(負債の増加)資金手当てをすれば、欠損の補填はできます。
が、逆に借入金の返済(負債の減少)額が、利益の額を上回れば、その分
資金は足らなくなります。

[注意 ! ] 若い人の報告書で時々見る間違い。
 欠損となった原因を、『たくさん仕入れをしたから。』と記載。
 なぜ、間違っているかわかりますね。
 大量に仕入れをしても、「原価(売上に対応)」にならなければ、在庫(資産)が
増えるだけで、『損益』には影響しないからです。
    原価  期首在庫
          +
        期中仕入   ← たくさん仕入れた
          -
        期末在庫   →(売上も原価率も変わらなければ)在庫が増える
 したがって、「今期欠損になったのは、たくさん仕入れたからです。」という
説明は、ありえないのです。
(「売上は同じでも、原価率が上がって余計に(たくさん)仕入れたからです。」なら、
まだわかりますし、その場合は『原価率が上がったから』と書くべきでしょうね。)

 前置きが長くなりました。今回の本題に入ります。

     一 「正常収益力」「実態バランスシート」って何 一

 前にも書いたとおり、確定申告書が、実態を正しく反映しているとは限らない。
正しくない数字をいくら分析しても正しい判断は導き出せない。だから、決算書の
数字を、実態に合ったものに補正する必要がある。では、どのあたりを中心に補正
する必要があるかを見ていきましょう。

 まずは、『損益計算書』から。(当然「貸借対照表」にも、連動していきます。)
 「売上」があり、「原価」「経費」「営業外損益」「特別利益・損失」ときて、
「税引き前利益」となります。

 さっき取り上げた「原価」で言えば、「期首在庫」は前期の決算書から引っ張って
くる数字なのでいじりにくい。「期中仕入れ」も出金(通帳で確認)や買掛金は相手
(仕入先)勘定があるので、いじりにくい。
 「期末在庫」はどうでしょう。棚卸しをどれだけ正確にやるかで、数字は簡単に
変わってきます。経営者の方に故意があるかどうかは別として、なかなかピタッと
正確にはいかない可能性がある。顧問税理士の先生も、把握しにくい部分でしょう。
 もし、前期と比べて「原価率」やB/Sの「在庫」の数字が大きく変わっていたら
要チェックです。原因を確認して、補正の要否を判断する必要があります。
(チェックのやり方は、別の回で取り上げます。)
 
 「売上」は?  計上方法(「検収基準」「出荷基準」「受注基準」)の切り替えや
決算期をまたいでの返品(マイナス勘定)等で、利益を調整している決算書が時々
見られます。決算月の売上が、他の月と比べてとても大きい(翌期の最初の月の
売上が異常に小さい)ようなケースは、要確認です。

 「経費」で言えば、何度も出てきている「減価償却不足」による調整や、「役員
報酬」を極端に少なくして利益を出しているケース。報酬が少ないために代表者の
生活費が不足して、会社から貸付金(代表者からは借入金)が発生している場合などは
補正が必要でしょう。

 「特別利益」で『役員借入債務免除益』等があれば、実質は利益が発生している
わけではないので、『正常収益力』という観点からは、当然に補正が必要です。

 ではなぜ『正常』収益力にこだわるのか? それは資金の収支、すなわち『返済力』
に直結するからです。基本、返済財源は、「税引き後利益」と減価償却等「直接
お金が出ていかない経費」の合計。プラス"やりくり"(資金増減の原則)によって、
資金繰りは回っています。資金繰りが回せなくなれば、企業は立ち往生します。
 すなわち、返済財源の一方の柱が「実質の収益力(損益)」であり、もう一方の柱が
「やりくりする力(資金調達力 ≒ 資産と負債のバランス)」なのです。

 次回は、もう一方の柱(資金調達力)に関連する、「実態バランスシート」について
ご説明します。

 宿 題
  『損益分岐点売上高(B.E.P)』について、復習しておくこと。
  ① 「損益分岐点売上高」の数字の意味は ?
  ② 利益を増やすためには、
    ⅰ 売上を〇〇〇
    ⅱ 原価率を〇〇〇
    ⅲ 経費を〇〇〇
 ヒント B.E.Pは何の略でしょうか ?  (算式は当然大丈夫ですね ? ) 富太郎


第3回 確定申告書のつくりと見方(2)

        一 貸借対照表(B/S) 一

 前回の続き「貸借対照表」のつくりに入る前に、宿題について考えてみましょう。

 〇「資産の増加」は、資金を 減らす 。
  例 売掛金の増加 = お金が入ってこない
    在庫の増加  = お金が出ていく
 
 〇「資産の減少」は、資金を 増やす 。
  例 売掛金の減少(回収) = お金が入ってくる
    在庫の減少     = 「売上」もしくは「返品」でお金が入ってくる

 〇「負債の増加」は、資金を 増やす 。
  例 借入の増加      = お金が入ってくる
    買掛金や未払金の増加 = お金が出ていかない

 〇「負債の減少」は、資金を 減らす 。
  例 借入の減少(返済)      = お金は出ていく
    買掛金、未払金の減少(支払) = お金は出ていく

 これらの原則は、今回勉強する「貸借対照表」の各数字(勘定)と、前年度決算の
各数字(勘定)との増減が「資金繰り」に影響を与えていることを意味します。

 つまり、すべてが「現金(即金)入金」「現金(即金)支払」でない限り、
損益である「収益及び費用」とキャッシュフローである「収入及び支出」とは、
異なったものになるということです。

 これが、利益を出していても資金繰りが行き詰まったり(「勘定合って銭足らず」)
赤字でも、やりくりで資金繰りを回して、企業が存続できている要因です。

 また、前回学んだ「損益計算書」の中にも、「減価償却費」等、経費勘定では
あるけれども、実際には『お金が出ていかない』ものもあります。
 上記の考え方で言うと、固定資産勘定は減価償却により減ります(資産の減少)が、
お金は出ていかないので、「資金は増える」ということです。

 この考え方は、企業評価のときにとても重要で、これからもたびたび出てきます。
しっかりと、頭に叩き込んでください。

 では、『貸借対照表』の説明に入ります。

 貸借対照表のつくりは、ザックリと以下のとおりです。
 借方            貸方
   ① 流動資産         ③ 流動負債
   
   ② 固定資産         ④ 固定負債

                  ⑤ (自己)資本

 注1 「流動」と「固定」の違いは、1年以内に現金化するか、あるいは支払わ
    なければならないかどうかによる。
 注2 各勘定の内訳を示す「付属明細書」もこの順番になっているので、
    頭に入れておく。

 貸借対照表を見るポイントも、損益計算書同様、
 『主な数字』『大きな数字』から押さえていきます。

 〇 主な数字
  「現金預金」「売掛金」「在庫」    ⇒ 資産勘定
  「買掛金」「借入金」         ⇒ 負債勘定
  「自己資本」

 〇 (その他の)大きな数字
  例えば「固定資産」「前払費用」「未払金」
     → どれが資産勘定で、どれが負債勘定かは大丈夫ですね?
       (大丈夫じゃない人は、もう一度「簿記」を復習のこと。)

 詳細は後日詳しく説明しますが、まずチェックすべきポイントは、
 ① 現金預金~月商、収益状況と比べて妥当な水準か?
        (極端に多い、あるいは少なくないか?)

 ② 売掛金・買掛金~月商と比較して妥当な水準か?
        (集金や支払いの条件と整合性はとれているか?)

 ③ 在庫~月商の何か月分か?  (多すぎないか? 少なすぎないか?)

 ④ 借入金~月商の何か月分か?  支払利息とバランスはとれているか?

 ⑤ 雑勘定(主要勘定以外。例:前払費用、未収入金、未払金、預り金等)
      ~(月商と比べて)過大ではないか?

 ⑥ 自己資本~蓄積状況はどうか? 
        マイナスなら、どのように資金補填がなされたか?

 これらのポイントを、上記「資金増減の法則」に当てはめてみてください。
  ・今期の決算で利益が出ているとすれば、その利益(お金)はどこに行ったのか?
  ・欠損だとしたら、どのように足らない分のお金を補填したのか?

 前期と今期、二期分の貸借対照表の各勘定を比較してみると、どの勘定が増えて、
どの勘定が減っているのかがわかります。
 (百万円単位でよいので、+-を見てみると、その企業のやりくりがわかります。)
 そして、今回の申込みにつながった、資金補填の必要性も見えてくると思います。

 『定量面』である「損益」「貸借」と、『使途』はつながっているということが
実感できるのではないでしょうか。

 次回は、決算書(表面上の数字)から、「正常収益力」「実態バランスシート」に
どのように修正していくかに、入っていきます。


   宿  題
 
 今回の復習も兼ね、
 なぜ、欠損が続き、資産よりも負債の方が多い状態(自己資本マイナス)でも、
企業が存続できているのか?    理由を考えてみてください。


 それでは、また次回。
 「1に睡眠、2に食事。寝られて、食べられているうちは大丈夫」  富太郎

第2回 確定申告書のつくりと見方(1)

        一 損益計算書(P/L) 一

 前回の宿題、『確定申告書』は見てみましたか?

 法人と、個人では、確定申告書のつくりは違います。

 まず、法人の確定申告書のつくりは、
    〇 別表 (事業年度分の法人税確定申告書等))
    〇 決算書(損益計算書、貸借対照表)
    〇 付属明細書
    〇 法人事業概況説明書
      * 他に「株主資本等変動計算書、個別注記表」「消費税の確定申告書」
       「(インターネット申告の場合)税務署の受信証明書」等が、
       添付されることがあります。

 次に、個人の確定申告書(青色申告書のケース)のつくりは、
    〇 確定申告書
    〇 青色申告書決算書

 という感じでしょう。(添付されないページもある。)

 まずは、「法人の確定申告書」から取り上げます。

 融資判断に使う材料として中心になるのは、「決算書」です。
 他の「別表」や「付属明細書」等は、決算書から、税金を計算するための過程を
示したり、各勘定の内容を詳しく説明するための資料だと考えてください。

 そして、決算書を見るときに大事なのは、
    『主な数字』、『大きな数字』をしっかりと把握する
ということです。
 これらを把握するためには「決算書記載のルール」を知ることが重要になります。

 前回説明のとおり、決算書は『損益計算書』と『貸借対照表』からできています。

 今回は、『損益計算書』の概要を見てみましょう。

 損益計算書は、1決算期(年月日~年月日)に、その会社がどのくらい利益を出して
いるか。あるいは欠損(赤字)を出しているかを示します。

 したがって、まずはその会社が「利益を出しているか」に着目します。
 「損益計算書のつくり」に沿って見てみると、利益は5種類あります。
   ① 売上-原価 である『売上総利益』 (粗利益 = 実質の稼ぎ)
   ② 売上総利益-販売費及び一般管理費 である『営業利益』
                          (営業活動の成果)
   ③ 営業利益±営業外損益 である『経常利益』 (経営活動の成果)
   ④ 経常利益±特別損益 である『税引き前当期利益』 (会社の業績)
   ⑤ 税引き前当期利益-法人税・住民税・事業税 である
                  『当期純利益』 (事業の最終成果)

 利益の中でも、「経営活動の成果」である、『経常利益』を見れば、
会社が(本業で)儲かっているかどうか、がわかります。
 ここがマイナスということは、「本業で儲かっていない(一時的な特別損益で操作
の可能性)」ということで、会社としては、対策が必要です。

 利益以外の、『主な数字』『大きな数字』は、
 (1)主な数字
  ① 売上(月商)=事業規模、② 原価率(原価÷売上)、③ 経費(固定費)
  ④ 支払利息(大きければ、借入が沢山あるということ)
 (2)大きな数字
  ① 売上、② 原材料費(原価)、③ 経費で目立つ勘定(人件費のことが多い)
  ④ その他目立つ勘定(他の企業と比べて割合の大きな勘定)
 注:前提として、申込企業が『何の会社か』を押さえておく必要がある。

 『主な数字』『大きな数字』を把握したら、それらの数字を掘り下げていきます。
(掘り下げ方は、後日改めてレクチャーしますが、) 例えば、
  ① 売上は、前年前々年と比べて、増えているか、減っているか(傾向の把握)。
  ② 原価率は、同業他社と比べて、大きな違いはあるか。傾向はどうか。
  ③ 役員報酬、人件費は、代表者の家族構成や、従業員数と比べてどうか。
  ④ 減価償却費は固定資産の数字と比べて、少なすぎないか。

 等々、『普通に考えて』おかしな数字ではないか。おかしいとすればその理由は
なぜか、を他の資料や代表者からのヒアリング等で把握し、前回お話ししたように
決算書を実態に合うように修正して、融資判断の材料とするわけです。

 この『普通に考えて』、ということが重要だと富太郎は考えます。
新聞や専門書を読む等、いわゆる"コモンセンス"を身に着け、磨いてください。

 余談ですが、40年以上前に私が新人のころ、ミスをすると当時の支店の偉い人に
「富太郎君『おかしいな』って思わないといけないんですよ。」と言われました。
 へそ曲がりの私は、「おかしいなって思えれば、間違えねぇよ」と心の中で毒づ
いていました。が、いまにして思えば、「おかしいと気付けるように、勉強しなさ
いね。」という意味だったんですね。未熟でした。すみません。

 余計な昔話はさておき、ここまでは大丈夫でしょうか。

次回は、『貸借対照表』について、続けていきます。


    宿  題

 問題 利益が出れば、資金は増えます。 欠損が出れは、資金は減ります。
   では、次回テーマの「貸借対照表」との絡みで、
   ・資産が増えると、資金は○○。 資産が減ると、資金は○○
   ・負債が増えると、資金は○○。 負債が減ると、資金は○○
   それぞれの○○には、「増える」と「減る」どちらが入りますか?
   簿記の知識から、考えてみてください。

 それでは、また次回。
  暑さに、負けるな。                  富太郎

第1回 イントロ  
    
    一なぜ決算書を読めなければいけないか ? 一 
 
 質問 そもそも、「審査って何だろう ? 」 
担当者としてお金を「貸せるかor貸せないか」を判断すること。
 では、何を「基準」に融資の可否を判断すればよいのか ?  
貸したお金がお客様のお役に立って、ちゃんと返ってくるかどうか。   
    ではないかと富太郎は考えます。

 掘り下げると、
①貸した企業が、これからもちゃんと存続していく(維持できなければ返せない。)。申込があったということは、その企業は今現在は存在している(創業企業は別)(はずだ)が、貸した後も存続し続けてもらう必要がある。つまり、潰れないということ。

②当初予定したとおりに資金を使い(使途)、計画したとおりの効果を出して、

③返済財源が確保できる。= 約定(融資条件)どおりの返済見込みがもてる。

かどうか。

ただし、これから(将来)のことなので、100%正しい判断ということはありえない。
「維持、返済の可能性の確からしさ」を担当者が疎明し、決裁者に納得してもらう。
それが審査。

 では、再び質問です。
利益が出る見込みがあれば、貸しても大丈夫なのか ?
決算が黒字なら返せて、赤字だと返せないのか ?

黒字でも倒産する企業はあるし、
毎年赤字でも、ずっと生き残っている企業(特に小規模企業。恐らく半数以上は赤字だし、それ以上の割合で、自己資本(資産-負債)はマイナスのはずです。)も、
ごまんとあります。

 なぜか ?
①「損益」と「お金の流れ(キャッシュフロー)」は違うから。
②小規模企業の場合、決算書以外の様々な要素もからんでくるから。

 企業維持に影響してくる要因
① 決算あるいはキャッシュフローという『数字』に関する要因を『定量(面)』
② ①の『数字以外』の要因を『定性(面)』
 と言います。
さらに、これらに「資金の使い道(使途)」が関係してきます。

この『定性』『定量』『使途』は互いに連動しているのです。

例えば、
 赤字(定量)だから、人件費が足らなくなり(使途)、融資を申し込んだ。
 設備が古くなったため(定性)、売上が下がり(定量)、設備資金(使途)を申込んだ。
 人件費を削減するために(定量)、機械を導入した(定性、使途)。
 代表者の息子が医大に進学(定性)。役員報酬を増やし、利益が減少して(定量)、
資金が不足たため、その補填(使途)で借入の申込があった。 etc、etc

簿記を勉強した人なら、「仕訳」が頭に浮かんだことでしょう。
この仕訳を積み重ねて、1年分を締めたものが『決算書』です。

 ご存じの通り、決算書は
1年間(決算期)に会社が「どのくらい儲かっているか」を表す『損益計算書』、

決算の日(時点)に「資産」と「負債」、「自己資本(資産-負債)」の数字がどうなっているかを表す『貸借対照表』。

 これに、税金計算の過程を示す『別表』、貸借対照表の各勘定の内訳が記載されている『付属明細書』。その他『法人事業概況説明書』、『株主資本等変動計算書』、『個別注記表』等が加わって構成されています。
 
        『確定申告書』を見たことはありますか ?

 今の時代は(富太郎が審査をしていたころと違い)決算書の数字を機械に入れると、
機械が自動的に『何格、何点』等と相談企業の評価をしてくれるようです。
 その評価をベースに融資の可否を判断するのですが、
注意しなければならないのは、小規模企業の決算書は必ずしも正しく実態を反映しているとは限らない。

 というよりは、ほとんどが「大企業のように会計監査を受けたような正確なものではない」ということです。

 なぜならば、小規模企業は株式や社債の発行による資金調達をすることはまずないので、IRの必要性に乏しいため、税金計算さえできれば、そこまで厳密な決算書は求められていないからです。

 したがって、「融資の可否を判断」あるいは「自己査定」をするのに、正しい財務内容(企業実態)をつかむためには、機械が出してきた数字(評価)を、人の力で修正することが必要です。

 お客様から提出を受けた決算書を『実態に合ったもの(「正常収益力」「実態バランスシート」といいます。)』に修正するためには、
 『簿記の知識』や
 『確定申告書のどこに何が載っているか」を知っていること
が、大前提なのです。

 また、小規模企業の場合、先ほども書きましたが、決算書の数字とともに、経営者の「人となり(パーソナリティー)」も企業評価の重要な要素となります。
いわゆる「定性面」については、後日詳しくご説明します。

 では、次回から「決算書の各数字の読み方(意味するところ)」について、確定申告書の成り立ちを絡めながら、学んでいきましょう。


  宿  題

(1)複式簿記の仕組みを復習しておく

(2)(どのようなものでもよいので)「確定申告書」を見ておく


今回は、ここまで。
体調には十分にご注意ください。            講師 富太郎

コラム

『簿記は何級ですか ? 』

3級でも決算書を読むには十分だと思いますが、インストラクター時代に富太郎が若い人によく言ったのは、 

・用語を知っていれば点数をもらえるのは、学生時代まで。

・その用語の意味するところを知っているだけではアマチュア。 

・その知識を実践で使いこなせてこそプロ。

 1日も早く、簿記の知識を実務で生かせるようになってください。